彼は1本しか求めなかった。だが彼女は2本とも持ってってと言い張った。視線を戻した彼は、彼女がコートの中に手を入れるのを見た。彼女の手が、この寒々とした10月のバス待合所で唯一温かい場所へとゆっくりと這い上がる旅に出る。彼女の体熱がウイルスのように彼に感染した。這い上がる彼女の指が止まった。彼が味わえたかもしれない、あのリッカ・メイド・キャンディ(参考)。その場所に辿り着く直前の位置で彼女の指が止まる。漆黒のストッキングの伸縮性がある部分を見つけたのだ。溌剌と張りのある白い太ももを優しく包んでいる。その部分の、男を勃起させずにはおかない甘美さは、彼には想像することしかできない。そして、その後の彼女の手は・・・これも彼には想像することしかできないが、コートの中に隠れながら、ゆっくりと巻きながら下っているのだろう。やがてその手がコートの裾から姿を現す。丸めた黒いシルクという収穫物と一緒に。
彼女は、まだ温かさが残る1本目を、彼の拳銃の固い銃身に垂らした。ストッキングの上から押しつけるようにして、彼の両手に拳銃をしっかりと持たせる。
彼が手を離そうとすると、彼女は押し止め、囁いた。
「私にさせて」
彼女は、丸めたままの、そして、彼女自身の香りでまだ湿ったままの、もう一方のストッキングをだして、彼の頭の上にあてがった。ゆっくり、ゆっくり、ストッキングの巻きを解きながら降ろしていく。もつれた巻き毛、額、唇、そして5時の角度のあごへと。そして、ストッキングに覆われた、平たく変わった表情の彼の頭を両手で押さえ、それに唇を押しつけた。彼は本能的に唇を開いた。彼は、黒いシルクを通して、彼女の舌先を感じた。
彼は若かった。彼は、それが放たれてしまうのを望んでいなかった。だが、それは起きてしまった。彼女は微笑んだ。
29号車が彼の生足の天使を夜闇に連れ去っていく。四角に縁どられた窓の中、彼女の姿を見送った。彼の視線は、遠ざかるバスのテールランプから、通りの向かいにある煌々と光るセブン・イレブンへと移る。だが、彼の意気は急に萎えてしまっていた。前面が濡れているリーバイスの中にある彼の分身と同じように。
ちきしょう。もし彼が、たばこを必要とするなら、今こそ、その時だった。
[Reviewers' Comments]
若者が犯罪者の人生を歩むことを押しとどまらせる最善の方法は何でしょう? それは、その若者が求めるものを与えること。このストーリーは、幾層にも魅力的な描写を重ね持っています。あまりに多過ぎて、一度読んだだけでは理解できないほど。それに作者は、二重の意味を持つ表現、つまりダブル・アンタンドレ(double entendres)を、まるで専門家のように使い、新しい暗黒小説の素晴らしい魅力を味わわせてくれています。涎れが出ますよ。