僕の会社はクリスマス・シーズンは暇な方なので、僕はホリデーになる前から休暇を取った。使っていない有給休暇がたくさんあったのだ。今のうち使い切っておこうと思った。
ずいぶん前からお隣さんとして付き合っている人がいる。アンジェラだ。彼女は、子宮ガンで余命が少なくなっていた。彼女は僕たち夫婦より2歳ほど年上の女性である。半年ほど前、診断を受け、化学療法のため、以前は愛らしく元気な女性だったのに、あっという間に、病気で閉じこもりっきりの人に変わってしまっていた。
妻は、自ら進んで僕に言ってくれた。仕事休みのときに、アンジェラをランチに誘ってあげたらいいのではと。僕は、普段は、病気の人と付き合うのを好まない。だがアンジェラは特別だ。
かつて、僕たちはアンジェラ夫婦と仲良くしていた。夫のレイモンドについては、僕は気に入ったことは一度もない。だが、アンジェラと僕はかなり互いに惹かれあっていた。気持ちが高まり、いつしか、2人とも本気になりかかっていた。だが、2人とも互いの家庭を壊すことは望まなかった。互いに納得の上、それぞれ、気持ちを静めることにしたのである。僕たち夫婦は長続きしたが、アンジェラ夫婦は続かなかった。
だが、僕の中には、いつもアンジェラを愛している部分があった。彼女は愛されるタイプの人だ。背が低く、陽気で、スポーツ・ウーマン的な人。ソーシャルワーカーの仕事をしていて、困っている人々のことを助けてあげる受容的な心をいつも持っていた。胸は小さく、お尻も可愛い。黒髪で、ラテン系の肌色をしている。ショートパンツとホールター・ドレスの姿がよく似合う。一度、薄地のネグリジェを着て僕の前でモデルをしてくれたことがあった。あの日、僕たちはあまりに密接になりすぎ、危うく一線を越え、2人の愛を体で完成しそうになったのだった。
今、アンジェラの所には毎朝、看護者が通ってきて彼女の容態をチェックしている。それに1日おきに掃除をする女性も来ている。僕は10時ちょっとすぎに電話をし、いつ頃ランチにしたいか尋ねた。アンジェラはいつでもいいと言った。僕は11時に行くことに決めた。
妻は、スープとカッサロールを作ってくれた。後は温めればよいだけなので、僕は、アンジェラの家で温めることにした。そういう仕事があれば、彼女の病気のこと以外のことを話題にできると期待したのだった。11時になり、妻が作ってくれた食べ物を持って、隣に行き、玄関のチャイムを鳴らした。中からアンジェラの声が聞こえた。
「どうぞ、中に入って」
彼女はカウチに横になっていた。サテンの室内コートを着て、膝にはキルトの布を掛けていた。青白い顔。すっかり痩せている。もともと痩せた体つきだったので、体重が減るのは彼女にとって大きな問題だった。4ヶ月前、アンジェラは子宮摘出を受けたが、癌はすでにリンパ腺に広がっていた。化学療法も役に立たず、余命は1ヶ月あまりとなっていた。もって、来年の初めまで。恐らく、そこまでは行かないかもしれない。アンジェラはできる限り家に留まり、病院に入るのは最後までにしようと戦っていた。決して勝利を収めることがないと誰もが知っている戦いだった。
キッチンに食事を用意した後、アンジェラがいるリビングに戻った。彼女は大変そうによろよろと立ち上がり、歩こうとしていた。カウチから2歩ほど歩いたところで僕は彼女を抱きとめ、しばらく体を支えてあげた。アンジェラが診断を受けてから彼女と二人きりになるのは、その日が初めてだった。腕の中のアンジェラは、あまりにもか弱く感じた。アンジェラは、僕に強く抱きつこうとしていたが、まったく力がなかった。僕は、薄くなりつつある彼女の髪にキスをし、アンジェラが望むだけずっと彼女を抱きとめていた。
「もう、疲れちゃったわ」 柔らかい声で言う。 「ちょっと座りましょう?」
「ああ、好きなだけ座っていていいんだよ」 アンジェラがカウチに座るのを助けた。 「お腹がすいた? メニューは、スープとカッサロールだ」
「いいえ、今はお腹がすいているって言うより、寂しいの。もうしばらく私の体を支えていてくれる?」
「もちろんだよ、アンジェラ。全然、構わない。今日は一日ずっと大丈夫なんだ。僕に用事があれば、いつでも、何でも言ってくれていいんだよ」
アンジェラは僕の肩に頭を乗せ、僕は何も言わずに彼女を抱き支えていた。とても長い時間。
「希望ね」 ようやくアンジェラは口を開いた。
僕は、僕たちの昔の思い出にすこし没頭していて、彼女のことを悲しんでいたので、アンジェラが何のことについて言っているのか分からなかった。
「何?」
「私には希望が必要。でも、それは、もはや、あなたが私にくれることができない物だわ。ここまできて、すっかり希望を消費しちゃった。本物の希望にせよ、偽物の希望にせよ。だから、希望の代わりに、ただ、夢を見させて欲しいの。あなたを抱き続けながら、あなたには、私たちが結局一緒になれて、なんとか幸せになり、今は何もかもすべて上手くいってると、そういう風な夢を見させてほしいの。そうさせてくれる?」
喉が詰まって言葉が出なかった。ようやく出せるようになり、すぐに答えた。
「もちろんだよ、アンジェラ。『もし、あのとき』というのを僕自身、今までずっと考えていたんだ」
「あなたと彼女が別れるのは一度も望んだことはなかったの。でも、もし、あなたと一緒になっていたのが、彼女でなく私だったらどうだっただろうって考えることが何度もあったわ」
「多分、君には良き夫になろうと努めていたと思う。多分、隣にセクシーな人が引っ越して来なければ、ずっとそうしていたと思う」
「いいえ、たとえそうなっても、あなたはそのお隣さんとちょっと浮気をするだけ。ずっと私に対して誠実な夫のままでいたと思うわ。あなたのことはちゃんと分かってるもの」
アンジェラは夢を求めていた。幸い、僕には、彼女と分かち合える夢が、わずかながらあった。僕は、比較的年長のカップルについての家庭内の愛情を題材にシリーズもののストーリーを書いて、インターネットに載せていた。多分、アンジェラなら、その話をいくつか聞いてみたいと思うかもしれない。
「アンジェラ? 僕たち2人が一緒になってかなり時間が経った後、どういう風になっているか、その話を聞いてみたい?」
「ええ、まさに、そういう話を求めているの。あなたと一緒に暮らすというのがどんな感じなのか、お話を聞かせて」
「そうだね・・・ある日の午後、僕が家に戻ると、君はストーブで、赤豆とライスの混ぜ料理を料理しているところなんだ。家には君と僕だけで、玄関先を入ったときから、料理の香りが分る。それに、君の香りも。家全体が、君の香りのような香りがしてる。その香りで、ようやく妻がいる我が家に戻ったと、僕は嬉しい気持ちに満たされるんだ」
「いいわね・・・」 アンジェラはか弱い、かすれた声で囁いた。
「その世界では、私は、もう仕事には出たくなくなっている。仕事には飽きてしまっているの。それに子供もいないのよ。私の時間のすべてをあなたと一緒に過ごしたいと思っているの。それでもいいかしら?」
「僕もそれでいいよ。君のような美しい妻がいて、毎日僕が家に帰ってくるのを待っていてくれたらって思っているよ。もし、そうなったら、毎日、走って家に帰ってると思う」
「私は、あなたが望むものを何でもしてあげるの」
アンジェラは興奮してる様子で言った。が、すぐに咳き込んでしまう。僕は、彼女の発作が収まるまで、しっかりと抱きつづけた。アンジェラは苦しそうなうめき声をあげた。湿ったような呼気が肺から漏れ、呼吸も中断したりと安定していなかった。
「もう大丈夫。お話を続けて。しばらく、私は聞いてるだけにするから」 弱々しい声でアンジェラは言った。
「分った。家に帰ると君はストーブで料理を作ってる。キッチンに君に会いに行くと、君は何も着ていないんだ。身につけてるのは、エプロンと、優しい笑みだけ。それは僕が好きな君の姿でもあるんだけどね」
アンジェラはにっこりと笑って、僕の胸に頬ずりをした。かすかに体が震えていたので、僕は毛布を彼女の体にかけた。僕自身も覆うように毛布を引っ張り、そのようにして、アンジェラの体がすっかり毛布に覆われるようにした。
「僕は、君に気付かれないように、こっそりと背後から忍び寄る。でも、君には僕の動きが聞こえてるんだ。いつものことだけどね。充分に近づくと、僕は君に後ろから抱き付いて、君の柔らかくて美しいお尻に僕の体を押し付けるんだ」
「でも、私はあなたよりずっと背が低いのよ、そこは押さえてある?」 アンジェラはくすくすと笑って、そしてちょっと咳をした。
「おい、続きが分ってるのかな? ともかく、今は話を聞いていてくれよ」
彼女の肩を軽く揉んだ。胸に当ててる彼女の頬が笑みで緩むのを感じた。
「僕は君の首の付け根にキスをして、ぎゅっと抱きしめる。『家に帰れば、裸の女性がいるとは。なんて素晴らしいんだ』と、そう言うんだ。君はさっぱりとした清潔な香りがしてる。それに、かすかに2人だけが知ってる特別の香水の香りも。その香水は、僕たちの結婚記念日に僕が買ってあげた香水。覚えている?」
アンジェラは優しく囁いた。
「ええ。あなた、それに名前を付けてたわ。『ファック・ミー香水』って」
アンジェラは、僕が驚いた顔をしてるのを見て、ちょっとだけ、くすくす笑った。僕は、アンジェラがこんなあけすけな言葉を使うのを聞いたのは初めてだったのだった。多分、ようやく最後になって、2人はこのように近づくことができ、感じたことをそのまま言葉にできるようになったのだと思う。この言葉は、アンジェラが、この話をどこまで持っていって欲しいと感じてるのかも僕に知らせてくれた。実は、どこまですべきか、僕は迷っていたのだった。
「ああ、その通りだよ。『ファック・ミー香水』だ。君は、それをつけると僕が興奮するのを知っていて、つけているんだ。髪の毛と耳の後側にすこしつけてある。僕は、ひょっとして他にもつけているかもしれないと思い、どこにつけているのか確かめてみたくなっている」
アンジェラは、この展開を気に入ってくれたようだった。僕のシャツのボタンを一つ外し、手を差し入れ、僕の胸を軽く触れた。アンジェラは病に冒され弱々しくなっていたが、ただそれだけの単純な接触だけでも僕は興奮していた。
「僕はエプロンの下に両手を滑り込ませて、赤豆を混ぜている君の胸を押さえる。『今日はどうだったの?』 君はそう訊くけど、僕の手にそんな風に触られているので、集中しているのは難しい」
アンジェラは不安げな声で訊いた。 「それ小さすぎる? 私の胸のことだけど。私の胸がもっと大きかったらいいのにと思ってる?」
「全然だよ。君の胸を触ったりキスしたりするのを僕がどれだけ大好きか知ってるだろう。一日中、ここのストーブの所にいて、君を抱きながら胸に触っていたいほどだよ。もし、それが、君がして欲しいことならだけど」
「いいえ、もっと違うこともして欲しいの」 静かな声だった。
僕も同じ静かな声で答えた。 「そう言ってくれる思っていた。僕は片手を下のほうに伸ばすんだ。すると、そこはいつもそうだったように、とても暖かいんだ」
アンジェラの手は優しく僕を愛撫していた。僕の胸に顔を寄せ、喘ぎ声を上げていた。
「君の唇に指をあてると、とても濡れているのを感じる」
再び、アンジェラは喘ぎ声を上げた。この時になって初めて、僕はもっと先まで話そうという気になったと思う。
「そこなんだ。僕がいつも君について大好きだったことの一つがそこなんだよ、アンジェラ。僕たち結婚してからずっと、君は、僕が求めるときはいつも準備ができてる人でいてくれている。他の男たちは、自分の妻のことについて不平を言ってるよね。求めると、頭痛がするとかと拒否されるとかと。でも、君の場合、いつでも用意ができているように僕には思える。僕が触れると、いつでも濡れていて、用意ができてるんだ」
アンジェラは満足げに溜息をついた。ほんの少し、僕は自分が何をしているのか分らなくなっていた。死にかかっている女性にエロティックな話しを語っているなんて。だが、今のアンジェラは、今朝、僕が玄関を入ってきて以来、どの時よりも幸せそうな表情をしているようだった。それに、ちょっと元気も出ているようにすら見える。
「君が赤豆をかき混ぜている間、僕は指で君の中をかき混ぜている。片手は君の胸を触ってて、乳首を擦ったり、暖かい胸を押さえたり、持ち上げたりしている。もう片手は君のあそこの唇を擦っているんだ。軽く中に入れたり、湿り気を楽しんだりしている。親指は君のあそこの丘を擦ってる。まばらにしか生えていない可愛らしい茂みを擦っているんだ」
「病院で剃られちゃうまではもっと濃かったわよ」 アンジェラはくすくす笑った。
「ああ、でもね、そこを薄くさせたのは僕なんだよ。その茂みの下の肉肌を見るのが好きだから。そこはトリムしておくことに二人で決めたんだよね」
「あら、あなたってとても妻思いの夫なのね。それとも、変態の夫なのかしら? うふふ」
「いや、僕はただ君のすべての部分に中毒になっている夫なだけ。君の香り、君の味、君のすべてが大好きなんだ。君を見ていたり、触れていたり、キスするだけで、何時間でも過ごしていられる」
「ストーブから離れない? ここはかなり暑くなってきたわ」
「僕もそう思っていた。君は赤豆とライスをストーブから降ろしていて、その間に僕は寝室に飛んでいって服を脱いでいる。君が寝室に入ってくると、僕は笑ってしまうんだ。君がキッチンでエプロンを脱いでしまってるから。僕の予定では、口を使って、エプロンを君から脱がそうと思っていて、待ち構えていたところだったから」
「あなたは、何か口に入れるものを探さなくちゃいけないわね」
「本当に僕は何かたっぷり食べるものを探さなくちゃいけない。すっかり君に飢えた状態になっているから。僕は君を抱き上げ、ベッドに押し倒してしまう。そうして、ベッドの上、君が嬉しそうに上下にバウンドをしているのを見るんだ。そして君のバウンドが収まると、僕はすぐにちゃんとした位置についているんだ。君の脚の間。そして両足を広げている。とても愛しい香りが僕を襲う。僕は、君が香水をつけていたもう一つのスポットを見つけたわけだよね?」
「ええ、そうよ」 アンジェラは、ほとんど悲しげに言った。 「あなたに私の脚の間にいて欲しいと思っていたの。永遠に」
胸が詰まりそうになった。だが、僕はその言葉を物語りの中で使うことにした。
「今朝、僕が家を出てから、本当に永遠のような時間が経ったと思うのは分っているよ。でも今は僕はここにいる。妻と一緒の我が家に。僕は、美味しそうなご馳走を前にしてるようにして君の脚を開き、食事を堪能するんだ。本当に美味しいんだよ。いつもそうだけど」
「本当にその味が好きなの?」
僕があまりにも強調して頷くのを見たからか、アンジェラは笑い出していた。
「だとしたら、私、何か大事なことをしてなかったことになるわ。これまで、熱くなりきっていない人を愛していたのかしら?」
「でも、今は違うよ。もし、許してくれるなら、一日中、僕は君の脚の間にいたいんだ。実際、君はとても暖かく湿ってきているよ。クリトリスにキスしたり甘噛みしたり舐めたりしているだけなのに。僕のおかげで、君は簡単に最初のオルガスムに導かれていく」
「最初の? もっとあるの?」
「もちろんだよ。始まったばかりさ。一晩中あるんだから」
「あなた、固くなってる?」
アンジェラは驚いた声の調子で訊いた。彼女が気づいていないはずがないと思っていたのだが、かなり前から僕のペニスは痛いほどにズボンの中で勃起していたのだった。
「見せてくれる? お願い、あなたに触れさせて!」
「どうしていいか分からないよ、アンジェラ。一線を越えることにとても近づいてしまう」
「もう私の女性の部分は大半、切除されてるの。だからさらに先に進むことなどできないわ。でもお医者さんたちは、忌々しい女性ホルモンを、いまだに、注射してるのよ。まだ、私は女なの。あなたにどんなこともできるというわけではないわ。もうこんなに弱ってるし。でも、最後に一度だけでも男性に触れたいの。あなたを抱いて、もう一度、男性の匂いを嗅ぎたいの。死ぬ前に、もう一度だけ、女性であることを感じたいの」
アンジェラはカウチの上、横になった。僕は服を脱ぎ、彼女の隣に横になった。勃起した僕に温かい頬を寄せ、頬擦りをし、深く息を吸って、僕の匂いを嗅いでいた。か弱い手で顔に僕を当てているだけでとても満足そうな表情をしていた。アンジェラは僕に物語の続きを語らせることはなかった。彼女の心の中で、彼女自身による話の続きを作っていたのだろう。それは間違いない。
しばらくすると、アンジェラの呼吸のリズムが平穏になっているのに気がついた。アンジェラはすっかり疲れてしまい、眠り込んでいたのだった。彼女の温かい呼気が僕に当たり、もうしばらく僕は勃起していたが、それも次第に柔らかくなっていった。僕は横になりながら涙を流していた。
アンジェラがクリスマスまで持つかどうか、僕には分からない。でも、もっと多くを彼女に与えることができたらと願っている。