この話は成人のみを対象としている。いつもの通り、建設的な助言は歓迎する。僕がもらうコメントは、たいていほんの手短な感謝の言葉だけであるが、それでも僕にとっては大きな励みになり、また腰を下ろして執筆しようという気持ちになる。僕にメールを送ってくれたら、できるだけ返事を書くつもりだ。が、今回は、かなり返事が遅くなるかもしれない。と言うのも、多分僕は日本に行っていると思うから・・・
26のJ席に座る者の日記から Richard Rivers
ユミは僕の友人の妻だ。僕は彼女の名前を使って一度冗談を言ったことがある。ユミと言う名前は僕らの関係を表しているんだね、と言ったんだ。つまり、you - meということ。でも彼女は、何をいっているのか分からないといった感じで僕を見ていた。確かに、彼女は僕の言いたかったことを本当には分かるはずがなかった。僕が密かに彼女のことを心の底から愛していたということを。
これから話す出来事。それはすべで本当に起きたことだ。それに、僕が行ったことには弁解できないような行為もあるのは知っている。でも、僕のことを知っている人が、いつの日か、僕の気持ちを理解して、僕にあまりきつく当たらないようになって欲しいと願っている。
ユミの夫のケンは東京支社から僕のいるオフィスに配属されてきた。年も近かったし、共通の人生経験もあったので、僕らはすぐに友達になった。だから彼の妻のユミに会うことになったのも当然と言えば当然だった。
ユミは日本人にしては背が高い。そしてほっそりとしていた。彼女の美しさは、会えば会うほど僕の中で募ってっくるような種類の美しさだった。彼女の身のこなしがそれだ。ほんのたわいない身のこなし、それを見ただけでも僕は心臓が痛くなるほどだった。彼女と仲良くなるまでは、彼女は感情を顕わにすることは滅多になかった。でも、どことなしかほのめかすような微笑みは魅力的だったし、雲の間から日が射すように僕の心の中で輝いていた。
ケンとユミに出会ったとき、僕はずっとつきあっていたガールフレンドと別れたばかりだった。僕は落ち込んでいることが多かったので、ケンとユミは、いろいろ気遣って僕を陽気にさせようとしていた。彼らの家に遊びに行って、夜を過ごしたことが何度もある。その頃から、僕の彼女に対する気持ちが花開くように膨らんでいったのだった。いや、人に言わせれば、ユミに対する妄想と言ってもいい。彼女を見ると、落ち込んだ僕の気持ちが、曇り空が晴れるようにすぐに消えていったのだった。そして、そういう時、僕は希望を胸に生きている実感を感じられたのだった。もちろん、実際には、むなしい希望であるにせよ。
ユミが手の込んだ食事を作ってくれている間、ケンは両足をコーヒーテーブルの上に乗せて、僕に飲み物を作ってくれる。招かれた客の立場だったので、僕が手伝おうと申し出ても、丁寧に、しかもきっぱりと断られてしまうのだった。ケンと二人でお酒を飲みながら談笑しつつ、僕は台所で静かに動いているユミの姿をこっそりと見続けていた。ナイフを手にした彼女の姿態の優しげな曲線。何かの作業に集中しているときに唇をちょっと噛む表情。それらを僕は忘れることができない。
それから数ヶ月すぎ、ユミの元来の慎ましさは次第に消えていき、僕がいてもずっとくつろいだ感じになるように変わってきた。彼女の個性がこれほどゆっくりと姿を現してくるのを見るのは、まるで、花がつぼみを開き、中に秘められた自然の驚異を明らかにするのをじっと辛抱強く観察することに似ていた。恥ずかしげな物腰とは裏腹に、実は強い個性を隠していた。ユミは辛辣なウイットを発し、ケンも僕もたじたじとなるほどだった。そんな時でも、僕は、いかに表面の層にすぎないとしても、そのような彼女の心の層を知ることができて嬉しかった。彼女の心の層を知っていく過程が嬉しかった。想像できないほどの深層にいたるまで、彼女のことを知っていく過程を続けていくことができる。そう考えると、この美しい、そして決して手にしてはいけない女性に対して僕が募らせている秘密の情熱に、自分自身を完全にゆだねてしまいたいほどの気持ちになるのだった。
ある晩、かなり遅い時刻まで彼らの家にいたことがあった。どんな時だったか、今は忘れてしまった。ただ、3人とも実に陽気な気分だったのは確かだ。3人で、たくさん日本のお酒を飲んでいた。僕は席を外し、トイレに向かって廊下を苦労しながら歩いていた。酔っていたせいもあって、僕はトイレと間違って、ケンとユミの主寝室に入ってしまったのだった。中は、廊下からこぼれてくるわずかな光だけに照らされていた。
このベッドで、ケンとユミが・・・。その思いが頭を巡った。僕は思わずぎゅっと目をつむった。浮かんできたイメージに気持ちがよじられ、いたたまれなくなったからだ。廊下を伝って、ユミの歌うような笑い声が聞こえてくる。その場を立ち去らなければならないとは分かっていた。だが、僕は無意識にドレッサーの方に向かっていたのだった。引き出しが少しだけ開いているのが見えた。
自分でも何をしているのかほとんど分からなかった。僕は、引き出しに手を入れ、最初に指に触れたものを引き出したのであった。ユミのパンティー・・・。おどおどした気持ちと興奮で、ほとんど目がくらんでいた。僕はそれをポケットに忍ばせ、急いで部屋を出たのだった。
トイレに入って、僕は取ってきたものを調べた。震える指で、パンティーを裏返しにした。ユミがこれを身につけたら、素晴らしく繊細で女性的な体に見えるに違いない。ケンたちが僕を待っている。二人の元に戻るため、自分を落ち着けるのにしばらく時間がかかった。その晩、その罪深き下着は僕のポケットの中でじりじりと熱く燃え続けていた。罪の燃え穴がじりじりと広げ続けていたのだった。
翌日、酔いからさめた僕は、自分がしてしまったことを思い、心を痛めた。恥ずかしさのあまり、二人に目を向けることができなかった。ユミのパンティーは、何日も、僕のドレッサーの引き出しの奥にしまって置いた。目の前にはないが、決して忘れたわけではない。いつも僕の心のどこかにその存在が引っかかっていた。そんなある日、ユミに夕食に招待された。僕は、その日、彼女のパンティーを引き出しから取り出したのだった。
僕は、そのパンティーを元に戻すことだけを考えていた。だが、ついさっき耳にしたユミの声と、指先にある柔らかい生地の感触に、僕は負けてしまった。ベッドに腰を下ろし、指先でそれに触れていた。その生地が覆っていたはずのユミの体を想像しながら。
その晩、僕は、ポケットの中にユミの大事なものがあるのを自覚しながら、注意深く、気づかれないようにユミのことを観察した。そのような状態でユミと接して得られる秘密のスリル感は、これまでにないほど圧倒的だった。
パンティーを元に戻すチャンスが到来し、僕はユミたちの寝室に入った。僕の目的は、盗み出してしまったものを元に戻し、この許されない喜びに終止符を打つことだ。だが、引き出しの奥に盗んだパンティーを押し入れたとき、僕の手に、さらに柔らかく、魅力的な感触の生地が触れたのだった。気分が落ち込んだ。自分が結局は衝動に負けてしまうことが分かったから。
自分の行動を止める力がない。僕は、元に戻したパンティの替わりに、別のパンティを引っぱり出し、ポケットに突っ込んだのだった。
この時もまた、家に帰るとすぐに僕は恥ずかしさと罪悪感に襲われた。パンティを自分のドレッサーの奥に隠した。だが、今回は、前回よりも早く、僕は再びそれを取り出していた。両手でそれを触りながら、ユミのことを思う。
さらに、その次にユミたちに会いに行ったとき、自分は、再び、また別のパンティと交換してしまうだろうとも思っていた。実際、そのチャンスが来たとき、僕は3つ取り出し、そのうち一番可愛いのを選んだのだった。シルクの黄色いパンティで、白レースの縁取りがしてあった。
こうして僕の盗みが日常的なものに変わっていく。そして、しばらく経つと、僕は、さらに次のレベルの悪事をしてしまったのである。
情熱的でエロチックな夢を見た。目を覚ますと、全身汗だらけで、しかも激しい勃起をしていた。夢で見たイメージがすぐに記憶から消えていきそうだった。それを忘れないようにしながら、僕はせっぱ詰まった狂おしい欲望を自分で解放すべく、行為を始めた。
その時だった、手に何か柔らかく、絹のような手触りの冷たいものが触れたのだった。枕の下に隠していたユミのパンティだった。多分、眠気に襲われているときに無意識的に取り出していたのだろう。冷たい絹の手触りは、心を和ませた。その薄い生地で僕自身を包んだ。ユミの唇が僕を包んでいる想像をしていた。それで太股を撫でると、その滑るような生地の感触が、彼女のさらさらとしたサテンのような髪の毛に感じられた。僕と彼女の肉体が様々な姿で絡み合い、二人が結ばれているイメージが浮かんでいた。そして、とうとう、僕は、丸めたパンティの中に、激しく痙攣しながら体液を放出してしまっていたのである。
翌朝、僕は乾いた精液でごわごわになっているパンティを見つけ、恐怖におののいた。すぐに、ぬるい石鹸水で、僕がつけてしまったと思われる染みを洗い流した。僕は、パンティを再び引き出しの奥にしまいながら、うちひしがれた気持になっていた。自分は妄想の世界にさらに奥深く入ってしまった。堕落してしまった。そんなことは、どうしても認めたくないのに。
僕は自分の欲望に抵抗しようとした。だが、長続きはしなかった。ケンとユミに再び招かれる時までに、どうしても、もう一度してみたくて仕方がなかった。盗み出したパンティをベッドの上に並べた。ユミが落ち着いた愉悦の表情を浮かべて、僕が差し出すものを待ち受けている。そのような情景を想像しながら自分にストロークを与えた。体液が濃い奔流となってパンティの股間部に当たった。その部分は、ユミのあそこの柔らかい唇だと想像しながら、僕は自分の手を精液で濡らしていた。この時は、前もってぬるま湯の石鹸水を用意しておいた。
その次にユミの家に招かれたとき、僕はなかなかユミを直視することができなくなっていた。それでも、彼女の顔を見ると、僕は、秘密の喜びに打ち震えるのだった。僕が精液を塗りつけたあのパンティを、彼女は、いつ身につけるのだろう。それを知りたい。その時のスリルは、多分、信じられないほどのものになるだろう。
その頃までには、僕はユミが15着ほどパンティを持っていたのを知っていた。そして僕は狂った考えを抱くようになっていたのである。彼女のパンティのすべてに僕は射精してしまおうという考えだ。そうすればユミに会ったときはいつでも、彼女が「僕のしたもの」を身につけていると分かる。僕は、毎回、一着ずつ盗み出すプロジェクトに着手すると誓った。もちろん、目標を達成するにはかなりの時間がかかるのは分かっていたが、どういうわけか、そのように長期に渡ることを思うと、説明しがたい興奮を感じていたのだった。
ちょうどその頃だった。僕はケンとユミの間にちょっと変化が生じたのに気がついたのだった。ユミの振る舞いに硬さが見られる。それまでにはなかったよそよそしさ。ケンは深酒をするようになり、ユミの前で、乱暴に振る舞うことが多くなっていた。
ある日、ケンと二人だけになったことがあった。ケンは、ユミとの間に問題を抱えていると僕に告白した。ユミはアメリカにいても楽しくないらしい。彼女はもっと自由を欲しがっている。だがケンは用心深いところがありすぎて、ユミに自由を与えようとしないのだった。ケンはユミの欲求を「がみがみ小うるさい」と表現していた。
僕は、これまでのように頻繁にユミに会うことができなくなるのではないかと内心恐れを感じた。だが、ケンは「それはだいじょうぶ」と僕に請け合ってくれた。僕の存在は、二人にとっては良い気晴らしになるらしく、僕は歓迎されているらしい。
2人に招待される頻度が多くなっていった。その時期、僕の秘密の計画は、素晴らしい進捗を示した。だが、同時に、僕がこれに取り憑かれる原因も再発見していた。ユミが不幸せになっていることを思う、心が実に痛んだのである。自分がどれほど彼女のことを思っているのか、あらためて確認していた。
このような考えは馬鹿げているに違いないとは思う。ユミに対する僕の愛情の大きさが、彼女の下着を盗むことで分かるなどと言う、病的でねじ曲がった心の発露だ。決して心に抱いてはならないユミに対する愛情。人倫に反した気持。それが、抑制されたあげく、ねじ曲がった表現の道を辿った結果なのだろう。ちょうど、せき止められた川が、時に、海に向かって流れるために、地下に潜ったりすることがあるのと同じなのかもしれない。彼女の夫であるケンがユミに優しくしていないこと知ると、僕は自分の状況をさらに悲劇的に感じるようになっていた。
2週間ほど先に、ケンの誕生日がある。ユミから電話があった。ケンのためにビックリパーティを開くから、その準備を手伝って欲しいと言う。当日、彼女が支度をしている間、2時間ほど家からケンを連れ出して欲しいというのだった。僕は、あまり早く電話を切られたくないという気持から、他に何か手伝うことはないかと訊いた。ユミは、自分ですべてできるから大丈夫と言っていた。爽やかな、でも、どことなく冷淡な調子の声だった。
その日になった。僕はケンを誘って、仕事終わりにお酒を一緒に飲みおごって上げた。彼は、ユミがその夜、彼をディナーに誘い出そうしてると思っていたらしい。二人の仲がまだうまく行っていないこと、ケン自身はユミと一緒にディナーに行くのに気が進まないことなどを僕にうち明けてくれた。ケンは僕といた1時間の間にスコッチを3杯も飲み干していた。
サプライズはうまくいったと思う。少なくとも僕の見た限りではそうだ。ユミのパーティは成功だったし、誰もが楽しい時を過ごしていたと思う。ただ一人、誕生日パーティの主役を除いては。その晩ずっと、ケンは多量にお酒を飲み続けていたのだった。むっつりと陰気そうにし、鬱病にかかっているような様子だった。来客たちは皆、腫れ物に触るように、彼に接していた。
あれだけの来客があったので、僕が、その場を抜けて、いつものことをするのは簡単だった。だが、いつもの引き出しに手を忍ばせた瞬間、僕はショックを受けた。中は空っぽだったのだ。一つ、きつく縛られた物が中にあるだけ。
冷たい汗を感じながら、それを取り出した。
小さな結び物を解いた。小箱が包まれていた。それを包んでいる布が、赤いリボンで縛られた黒いシルクのパンティであるのも分かった。誰かに見られているような気がし、くるりと振り向き背後を確かめた。誰もいない。遠くから聞こえてくるパーティの音が、曖昧な唸り声のように聞こえていた。僕は寝室から抜け出し、トイレに入った。
そのパンティは、高級シルクの生地でできたもので、細かなレース刺繍で縁取られていた。一番目についたのは、前面に刺繍された日本語の文字だった。毛筆の字体だった。僕には、その文字の意味が分からなかった。パンティを目の前に広げると、小さな紙切れが床に舞い落ちた。その紙には三つの言葉が書かれていた。一つは"I know(知っている)"という言葉。後の2つの文字は僕も知っている漢字だ。"Yumi"を表す漢字。
最初、本能的に僕は逃げ出そうと考えた。トイレの窓から外に出て、走り去ろうと。パーティに戻って、何食わぬ顔でユミの顔を見るなどできそうもない。部屋の中がぐるぐると回る感じがした。呼吸がひどく荒くなっていた。トイレに隣接しているバスルームに行き、バスタブの端に腰を下ろした。考えをまとめようとしたが、何も浮かばない。浮かんでくるのは、何千もの人々の怒りの叫び声だけだ。みんな僕の過ちを罵っている。
どれ位そこにいたか分からない。次第に心の中の理性の声が高まってきて、他の声を制し始める。どうして彼女はあれを小さなリボンにして包んでいたのだろう? ひょっとして・・・怒っていないのか? その可能性について考え始めたとき、ドアをノックする音がした。知らない人の声だ。中に誰かいるのか訊いている。僕はパーティ会場に戻るしか他に道がなかった。
ユミは忙しそうに来客の世話をしていた。僕が廊下から出てきたところを、彼女はちらりと見たのではないだろうか? 僕はできる限りユミから離れたところにいて、彼女を見つづけた。注意深く、何かサインがあるのではないかと探しながら。だが、いつもどおりの優雅で上品な身のこなし。何もサインは見つけられない。
すぐにこの場を離れて帰ってしまおうかと思った。僕に電話をくれるのを家でじっと待っていようかと。「ユミは知っている、知っているんだ!」 その言葉が頭の中を駆け巡りつづけた。でも、どうやって知ったのだろう? どうして、バレてしまったのだろう? あの贈り物を結んでいたパンティは、怒りの印なのか? 皮肉をたっぷりこめたものだったのだろうか? あれは何かの合図だったのだろうか? だとしたら、何の信号なのだろう? どうやったらそれを知ることができるだろう?
僕は、自分の状況について考え込みながら立っていた。ちょうどその時、突然、部屋の向こうでちょっとした騒動が起きた。素早く視線を走らせると、ケンがよろめきながら立ち上がっている。人々が彼の周りで動いていた。身じろぎして彼から離れようとするものもいれば、近寄って助けようとするものもいた。そしてその後、何かが倒れる大きな音。コーヒーテーブルがひっくり返って、ケンはカーペットの上に大の字になって倒れていた。僕もその場所に寄って行き、倒れた誕生パーティの主人公の回りに立った。「酔いつぶれたんだよ」 誰かが言っていた。「ともかく、彼をなんとかしよう」 何本もの手が伸びてきてケンをソファに持ち上げ、そこに寝かせた。
その後、パーティは急速に寂しくなっていった。何人もの人がユミに手助けしようと申し入れていたが、彼女はそれを全部断っていた。夫があのような失態を演じた後だと言うのに、ユミは申し分のない平静さと優雅さで来客を見送った。僕にも声をかけてくれた。「ちょっと手伝って」と。「このコップを拾って」とか「このワインにコルクの栓をして」とかそういう類のことだった。ユミは僕にこの場にいてもらいたがっている。僕にはそのメッセージが明瞭に伝わってきていた。
最後の客が帰っていった後も、僕はユミを手伝って、家の中を元通りにしていた。ケンはソファの上でいびきをかいて寝ていた。ケンの顔には何もかも忘れて安楽そうな表情が浮かんでいた。ユミは、細かなところに注意を払いながら、不機嫌そうに働いていた。僕は好奇心と恐怖が入り混じった気持ちだった。心臓が高鳴っていたのは事実だ。ユミはどんなことを僕に言うのだろうか? 何か期待できるのだろうか? 分からない。ユミは、どのような気持ちでいるのか、まったく表面には出していなかった。
ようやくすべてが片付き終わる。ユミは寝具類のクローゼットから毛布を持って戻り、ケンの上にかけた。
僕に近くに来るように手招きしている。僕はユミのそばに立ち、眠っている彼女の夫を見下ろしていた。その瞬間まで、僕はユミの視線を避けていた。だが、今、ユミはじっと僕を見ているのを感じる。澄んだ視線だが、突き刺すような視線。僕の変質的妄想世界が、とうとう生身の人間の世界にぶち当たったのだ。僕はがっくりとうな垂れた。
ユミは、なくなっているものがあるのに気がついたところから話しはじめた。夫を起こさないよう、静かな声での話し方だった。
「パンティは15個持っているわ。毎日一つずつで、洗濯する日を挟んで2週間分。それに他にもいくらか。だから、一つでもなくなれば、簡単に分かる。でも、それに気がつく前ですら、あなたが私に興味を抱いていることには気がついていた。それに、あなたがその気持ちを持って、どのようなことをするのかにも興味があったわ。あなたが何かをするとしての話しだけど」
ユミは、彼女自身の感情は明かさないよう注意深く話しをしていた。ケンが前に話していたこと、つまり夫婦生活がうまくいっていないことも僕に話してくれた。実際、ユミは間もなく日本に帰るつもりでいるらしい。そしておそらくそのまま戻ってこないと。
そしてユミは訊いてきた。
「下着を手に入れた後、それで何をしたの?」
質問は単純で、直接的だった。僕には、言い逃れをする余地がまったくなかった。それでも、僕は、はっきり言うのをどうにかして避けようとしていた。
僕は、小声で、眠っているケンを神経質に見ながら、話しはじめた。一部しか話さなかった。盗んだパンティを「崇めてた」とか、そんな馬鹿げた表現を使って説明していたと思う。
僕の言葉はまったく効果がなかった。話しながら、僕は自分で自分を逃げ場のない隅に追い詰めていた。ユミの眼差しは僕を先に先にと駆り立てているように感じられた。僕自身の破滅へと駆り立てているように。僕は、意味のあることは語らず、たわごとをべらべらとしゃべり続けた。だが、とうとう言いくたびれて、黙ってしまう。二人ともしばらく黙ったまま立ち尽くしていた。
そのとき自分でも不思議に思えることが起きた。他にもはや逃げ道はないと分かった僕は、本当のことをしゃべり始めたのである。僕がしてきたこと。この何ヶ月かの間、僕が感じてきたこと。それを初めて他の人に告白していたのだった。
言葉がずっと楽に流れ出ていた。澄んだ冷たい清流が滑らかに流れるように言葉が出た。その流れを遮るものが何もない。僕は高揚した気分になっていた。心が軽くなっていく。僕を捉えていたものが大変な重荷になっていたことをその時、悟った。ユミは黙ったまま、僕がすべてを語り終えるまで熱心に聞いていた。
すっかり話し終えたときには、僕は疲労していた。ユミの反応を待ちながら、何度か深い深呼吸をしたのを覚えている。最終競技を終えたフィギアスケートの選手が審判の結果を待っているような感じだった。
そして、ユミは僕を驚かせたのである。静かな声で言ったのだ。
「ズボンを脱いで」
あまりにも驚いてしまい、何を考えるべきか分からなくなっていた。替わりに僕の下着と交換しようとしているのか? そんなのは馬鹿げたことだとは分かっていた。だがその瞬間に僕の心に浮かんだことはそんなことだったのである。
そばで眠っているケンを指差して、僕は抵抗した。だがユミはかたくなに、要求を曲げなかった。僕はユミの前で、まったくどうして良いか分からない、まるで裸にされた子供のような気持になっていた。告白をしたことですっかり気力を使い果たし、ユミが望むことに抵抗するだけの力がなくなっていたのだった。
僕はズボンを足首に絡ませたまま、ユミの前に立った。ユミは僕のパンツを引き降ろし、それからシャツの裾をめくりあげた。僕は非常に興奮していた。だが、今にもケンが目を開けるのではないかという恐怖と、それにおそらく飲みすぎたことによるのもあるのだろう。ほとんど勃起できずにいたのだった。普通だったら、このような状態にいることを想像しただけで、驚くほど興奮状態になるのに。だが、今は、情けない姿だ。これをユミに見せているのが恥ずかしくて堪らない気持だった。
ユミは例の黒シルクのパンティを手にした。僕の前にひざまずいて、僕を見上げながら言った。
「私はケンと結婚したとき、もう決して他の男性には手を触れないと誓ったの。今でもその約束を破るつもりはないわ」
そう言うとユミは手にしたパンティを使って僕の半立ちのペニスを包み込んだのだった。そして口を開き、パンティの上から僕のすべてを口に含み、吸い始めたのだった。ユミの口は、確かに、僕にまったく触れていない。
ユミの唇が僕を包み込んでいる。温かく湿り気のある圧力を加えて僕を締め付けている。すでに身に覚えがある、シルク生地で肌を包まれる感覚。それがさらに刺激の強いものになっていた。僕のペニスはみるみる膨らみ、とうとうユミが僕のすべてを口に入れることができないほどになった。ユミは頭を前後に動かし始めた。僕をエクスタシーの境地に送り込んでいく。
僕は顔を下げてユミを見た。二人の視線がほんの少し絡み合ったが、ユミはすぐに目を閉じた。額の真中に少ししわを寄せている。何か真剣に考え事をしているときのような顔だ。ユミは前後に頭を動かすスピードを緩めた。絹の薄い生地を通して、ユミの舌が僕のペニスの輪郭部や冠部を探るのを感じた。すでに僕は痛いほどに勃起していた。さらに、唇を前よりももっときつく締め付けるユミ。僕を咥えたまま本格的に前後に動き始めている。
僕は体をもぞもぞと悶え始めていた。快楽から、小さく叫び声をあげていた。すると、ユミは、一旦、口を離し、体を起こして僕の横に立った。そして僕の耳元に囁いたのだった。
「あなたが一人でいるときに、私のパンティを使ってどんなことをしていたのか、私に見せて」
かすれた声だったし、息も乱れていた。僕の肩に手をおき、ひざまずくようにと押し下げた。さらに僕のペニスに手を伸ばし、それを覆っていたパンティを取り、目の前のコーヒーテーブルに置いた。僕が、ベッドの上に置いたと言ったのとちょうど同じように、テーブルに置いたのである。
僕は、その低いテーブルの横に膝をついた。ケンが一瞬、寝返りをうった。僕はパニックになって立ち上がろうとした。だが、ユミは僕の肩に手を当て、押し戻した。
1、2分、動かずにいたが、その後、ユミは軽く僕の背中を叩き、先に進むよう合図をくれた。僕はじっと眠っているケンを見ながら、ためらいながらもオナニーを始めたのだった。ユミが僕のために広げてくれたパンティを使って。
おどおどとした状態だったものの、すでに自分がオルガスムスに近い段階になっているのに気がついた。見上げるとユミが僕を見下ろしていた。自慰をする僕の前に立ち、両腕を前に組んで見下ろしている。何度か荒い呼吸をするのにつれて、ユミの胸がせり上がったり下がったりを繰り返すのが見えた。
さらにもう少し続けた。もはや射精まで引き返せない段階になっていた。僕の手は、激しくペニスのシャフトを擦りたてていた。ユミの視線がこげるほど熱く僕に注がれているのを感じる。僕は片膝をわずかに立て、僕の濃い精液が下の方向へ噴射するよう狙いを定めた。僕の前に広げられているパンティ。その股間部分に施されている刺繍縫いの文字。そこに直接当たるよう、狙った。ユミも僕の振るえる体に手を添えて体を抑えてくれた。全身を揺さぶるオルガスムスは、永遠に続くように感じられた。
とうとう射精が済む。ユミは丸めたパンティで僕の体を拭いてくれた。そして、そのパンティでさっと素早くコーヒーテーブルをひと拭きした。僕がズボンを履いている間に、ユミはキッチンに行き、紙タオルを持ってきてコーヒーテーブルについた汚れをきれいに拭き取った。僕の狙いは完全には当たらなかったようだ。
***
その後、起きたことは、うんざりさせるようなことだけだった。ケンとユミは結局、離婚した。互いに抱く悪感情にケンもユミも消耗しきってしまい、もはや2人は僕のことを相手する時間すらなかった。そして、ユミは日本に帰ってしまった。
僕とユミはあの出来事について一度も話し合わなかった。あの日以来、僕たちは急速に離れ離れになっていったように思われた。あの出来事を話題に出しても、何ら未来に展望をを期待できない。それを考えると、話題にしても、その価値がないように思われた。
ユミは、結婚の破綻に関して気持がすっかり囚われているようになっていたし、僕もユミを失うのを思って大きく気落ちしていた。であるので、ユミの顔を見ることができる数少ない機会があっても、僕はすっかりメランコリックな雰囲気しか感じられなかったのだった。
ユミが日本に帰ってから1ヵ月後、僕は小包を受け取った。驚いたことに、その中にはあの夜、あれほどの大きな役割を演じた、まさにあのパンティが入っていた。あるいは少なくとも、同種のパンティが。
パンティと一緒に、かなり謎めいたメモが入っていた。パンティに刺繍縫いされている文字の意味が分かったら、日本に会いに来て、それについて話し合ってもいいと言った内容のメモ。
日本語の辞書を見つけるのにかなり時間がかかってしまった。さらに何千とある同じようにしか見えない文字の中から一つを探し出すのにも、非常に時間がかかってしまった。誰かに訊いて訳してもらうというのも考えたが、その文字の意味が、何か恥ずかしい意味だったりいかがわしい意味だったりした場合を考えると恐ろしくてできなかった。ようやく僕が発見したこと・・・それは、その文字が「愛」を表しているということだった。身体的な愛情交換の行為・・・
僕が住む場所から成田まで、フライト時間は12時間である。もうそろそろ、この装置も片付けてしまわなければならない。飛行時にはすべての電子装置の電源を落とさなければならないから。今、僕がどういう状態か分かると思う。僕の隣に座っている男が、僕が書いていた内容を多くは見ていなかったならいいのだが。だが、たとえ見られていたとしても、どのみち僕は気にしない。それより僕の頭を支配しているのは、この旅行がお馬鹿者のお使いに終わるか、そうはならないかという問題だ。こんな曖昧な期待を元に地球を半分飛んでいくわけだから・・・あのパンティの淡く薄い生地にも似た夢を夢見て・・・。